TypeBank Font Collection

味岡伸太郎かなシリーズと

漢字フォントの組見本帳




仮名による多様化

少し古い数字ではあるが昭和44年の共同通信の百万字調査によれば、漢字46.23%に対して非漢字53.76%の内、ひらがなが35.36%、カタカナが6.38%である。その後漢字離れも進み現在日常的に目にする一般的な文章ではこの調査よりはるかに仮名の量が多く、一説には60〜70%を仮名が占めているという。さらに我々は長い間の習慣によって、漢字、ひらがな、カタカナの組み版を受け入れ、多くの人達はそのことに不統一は感じていない。アルファベットのタイプフェイスのようにテクスチュアや濃度の統一されたデザインを多くの人達は望んでいないと私は思っている。そのような不統一の組み版を受け入れることが可能ならば、一つの漢字に対して多くの仮名のデザインを組み合わす新しい組み版の考え方が生まれることには必然性がある。タイプフェイスの性格は60〜70%を占める仮名、その中でも特にひらがなによって決定されている。つまり、仮名を変えるだけでその組み版そのもののイメージも大きく変化させることが可能なのである。多様化が求められるタイプフェイスデザインに立ちはだかる膨大な漢字の量の壁は、基本となる漢字に対してたった150字の仮名をファミリーで複数制作し組み合わせて使用することで克服が可能となる。





1 骨格のファミリー

文章の中で特にその部分を強調したい時、またイメージを変えてみたい時、欧米ではイタリックが用意されている。イタリックはエレメントは同質で骨格を斜めに変化させたものと考えることができる。 歴史的に日本語のタイポグラフィではそのような場合に標準的に用意された書体・方法はなかった。書体数が少なくファミリー化された書体を持たない現状の日本のタイプフェイスでは、選択の余地はほとんどなかった。もちろんタイポグラフィのテクニックとしてそれを処理する方法はいくらでも考えられる。しかし、そこに対応する漢字に対して骨格の違う仮名のファミリーを持つことが可能ならばタイポグラフィの可能性はさらに広がる。






2 ウエイトのファミリー

従来のファミリーの要素で最も基本的なものはウエイトのバリエーションである。ウエイトとは簡単に言えば線画の太さのことである。又、それによって変わる字面の黒さのことである。ウエイトのファミリーで最も問題になる点は画数の多い文字に対する最も重いウエイトの書体の制作である。ウエイトのファミリーの制作の基本はできる限り骨格を変えずに太さの変化をつけることである。文字は線の集まる部分に黒みが片寄ったり、小さなスペースで交わる場合にはつぶれが出る。そのため、それぞれ線の太さが同じに見えるように調整が必要となる。それが不可能な場合には骨格の移動をしてデザインする。






3 エレメントのファミリー

明朝体とゴシック体の仮名を同じ骨格で作る。この考え方も従来のファミリーには含まれていない。仮名によるタイプフェイスの多様化の方法で最も重要で、かつ新しい考え方である。この方法の採用によって統一された文字組の可能性がひろがる。タイプフェイスにとって、最も基本となるのは骨格である。その骨格にさまざまなエレメントがデザインされ、タイプフェイスとなる。その流れから考えれば一つの骨格に対して複数のエレメントがデザインされ、ファミリーを形成することは当然考えられていい方法である。
 しかし、従来はエレメントが違えばファミリーに加えられることはなかった。タイプフェイスを表面的なエレメントだけで展開せず、基本的な性質である骨格を基準にすることで、従来よりはるかに幅広いファミリーの形成が可能となる。
 骨格は民族の歴史の中に流れ続ける本質的な姿であると考えたい。そしてエレメントは歴史の一頁、時代を代表するファッションのようなものではないだろうか。時代の好み、筆記用具、そして再現するための技術の変化によってタイプフェイスは変革を続けていくことができる。







仮名によるファミリー

具体的に説明すると〈築地・小町・行成・弘道軒・良寛〉の5骨格の明朝体それぞれに4種類のウエイトのファミリーを制作する。合わせて20種のファミリーができる。さらに制作を進め、その5つの骨格で明朝だけでなくゴシックの仮名を制作する。これもファミリーに加えていくと、統一された考えに基ずく一大ファミリー群が形成される。
 漢字と仮名が統一されていないことから必然に導き出されたこのファミリーならばさらに複雑な組合せも可能である。たとえばゴシック体の漢字に対して明朝体の仮名の使用も含まれる。それは過去アンチック体として試みられていた方法でもある。もちろん、その逆も考えられる。ゴシック体とアンチック体の使用は従来、タイポグラフィの世界では傍流と見られていたのだが、このファミリーの中で考えればその使用方法が、必ずしも正統的なタイポグラフィから、はずれていないばかりか発生して当然な方法であったことが理解される。漢字と仮名のテクスチュアが統一されていないことを、日本語の必然性と考えることで、このようにさまざまな展開が導きだされる。



アウトラインフォント用ファミリー


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